スクーターの仕組み・変速編

ある程度回転が上がったら次のギヤへ変えてやる。
これが変速の原理。
しかし「めんどくさ〜い!」に呼応して「んじゃ自動で!」
これがオートマチックの原理。

四輪のトルクコンバータの場合は回転を速くすればオイルも速く回るのでタイヤも速く回る。
それだけ。
あんな大掛かりな機構だもの。可能さ。
尤も昔からロックアップ機構はあったから現在のトルコンは速度を上げている時はマニュアルと同じ感覚だけど。
この変速は太陽と遊星とその遊星をガイドするキャリアから成り立つ「遊星ギヤ」と呼ばれる構造をしている。
太陽が主体で回転している時がロー。
太陽を止めて遊星が主体で回転している時がドライブ。
太陽が主体でキャリアを止めた回転がリバース。
となる。
(この理屈はパズルの様に難解なので四輪の構造をやる時があったら図にしましょう)

本題のスクーターの場合はVベルトと呼ばれるチェーンに当たるベルトで駆動している。
だからエンジンの回転を上げればタイヤも回転を始めるが、半径15cm程度のベルトだけで0km/h〜100km/hまで回すには何回転必要なのだろう?
おそらく3万rpmくらい必要なのではないだろうか?・・・・無理。

だからギヤ比を変えてあげます。
ギヤ比?
ここでいうギヤ比は、ベルトのエンジン側の半径とタイヤ側の半径の差を指します。
停止状態の時のベルトはこうなってます。

これが速度を上げるとこうなります。(だんだん図が手抜きになってきたな・・・)

要するに自転車のギヤと全く同じです。
自転車はワイヤーを使ってチェーンをガシャンと違うスプロケットに乗せ替えていますが、スクーターは両方のスプロケットの径を自動的に変えてやる事によって実現しています。

さて、それでは「自動で」ってどうやって?
その原理は、ここでも前回のクラッチと同様に遠心力を使っています。

先ずエンジン側を見てみましょう!
静止状態ではこうなっています。
プリーの1つはエンジンブロックに固定されていて単に回転しか出来ません。
そしてそのプーリーには反対側にランププレートという板が固定されていて、これも同様に回転しか出来ません。
そしてこのランプルレートと2枚目の稼動が出来るプリーの間にはウェイトローラーという円柱状のローラーがグリースまみれになって通常は6個入っています。
右はプーリーを正面から見た図でウェイトローラが中央に集まっています。
これはベルトがその張力で2枚のプーリーの間に割って入っている為で特別なスプリングが入っている訳ではありません。
何故ベルトが割り込む程の張力を持っているか?というとそれはこの次に説明するタイヤ側のドリブンプーリー(ドリブンフェイス)がスプリングで押されて半径を大きくしている為です。

エンジンが回るとプーリーも回転し遠心力が発生します。
するとマスで仕切られている空間にフリーの状態で置かれているウェイトローラーはその遠心力で徐々に外側に浮いていきます。
ウェイトローラーがせり上がると稼動出来るプーリーが押されてプーリー間の隙間が狭くなります。
当然その上を走っているベルトは押し上げられて、半径が徐々に大きくなる訳です。
さらに遠心力が増すとウェイトローラーは一番外側まで飛ばされ、プーリーが一杯まで押し出されて半径が最大になります。

さて、それではウェイトローラーの重さを変えたらどうなるのでしょう?

先ず、ウェイトローラーを重くした場合。
質量が増えるので遠心力の影響を受けやすくなります。
すると少しの回転でも半径を大きくするようになり、いわゆる「回転を引っ張る」という事をしません。
つまりスタートと同時にギヤをポンポンと上げていく動作と同じになりエンジン回転数を抑える事で燃費向上に繋がります。

次に軽くした場合。
遠心力の影響を受けにくくなり、エンジン回転を上げないと半径が大きくなりません。
つまりスタートしたまま1速で引っ張り続ける動作と同じになりスタートダッシュに繋がります。

ところでベルトはゴムとポリエステルなどの繊維で出来ている訳ですが、輪ゴムじゃないんだから、そう簡単に半径を変える事は出来ませんよね?
なのに何故半径を大きく出来るのでしょうか?
それは次のドリブンプーリーが同時に逆の動作を始めて帳尻を合わせているからです。

先ず静止状態の時ですが、
タイヤ側にもエンジン側と同じ様に2枚のプーリーがあって1枚はエンジンブロックに固定されていて、回転しか出来ません。
そしてそのプーリーには反対側にクラッチアウターが固定されていて、そのクラッチアウターと2枚目の稼動するプーリーの間にはスプリングが入っています。
このスプリングをセンタースプリングと言ってベルトの張力よりも大きな張力でプーリーを押しているのでベルトがせり上がっている状態になっています。

エンジンの回転が掛かってエンジン側のベルトがせり上がると、タイヤ側のベルトが引っ張られます。
やがてスプリングの力よりベルトがエンジン側に引っ張られる力の方が強くなってくると、ベルトがスプリングを押してプーリーの中に割って入り込みます。

こうしてベルトの半径を変える事なく前後で、
静止状態:前が小さい<−>後ろが大きい
駆動状態:前が大きくなる<−>後ろが小さくなる
とバランスを取っている訳です。

さて、それではそのスプリングの張力を変更したらどうなるのでしょう?

先ず、スプリングの張力を強くする(バネレートを高くする)と、エンジン側がベルトを引っ張ってもタイヤ側が頑張ってしまい引っ張られないようになります。
でもエンジンは回転数を上げ続けますから、低いギヤのまま走り続ける事になります。
つまりダッシュが鋭くなる訳です。

反対にスプリングを弱くすると、エンジン側の要求にすぐに応える様になり、次々にシフトアップしてく動作になります。
つまりエンジン回転数を抑え燃費向上に繋がります。

それでは、ここで上記のウェイトローラーとセンタースプリングの関係をもう一度整理してみましょう。

ウェイトローラーを重くする:燃費が向上する。
ウェイトローラーを軽くする:スタートダッシュが鋭くなる。
センタースプリングを強くする:ダッシュが鋭くなる。
センタースプリングを弱くする:燃費が向上する。

もうお判りですよね!
ウェイトローラーを軽くしたり、センタースプリングを強くしたりすると、発進から1速のまま引っ張り続ける感覚。
ウェイトローラーを重くしたり、センタースプリングを弱くしたりすると、発進からすぐにシフトアップしていく感覚。
になります。

まぁ、何度も言う様に、程度問題ですので試行錯誤が重要になります。
これらの理屈を理解するのは簡単ですが、では何故そこでプロが存在するのか?というとこの試行錯誤を繰り返した挙句、自分也の適正値を持っているからなんですね。
素人が一から始めるのは大変ですよぉ〜!
チューニング時には是非プロの知恵を借りましょう!

おしまい。